原発も普通のプラントと変わりはない。火災も起こる可能性もあれば、サビが出ることもある。そういった「通常の」異常ならば、「通常の」やり方で抑えればいい。ただ、言うまでもなく原発は放射性物質を大量に扱う施設である。その際、気にかかる異常は放射線の漏れだ。無味無臭で有害の細かい粒が飛び散ってしまうこと、そして生き物に触れるとDNAに修復不能な大打撃を与えて場合によっては死に至らしめる。したがって、原発の安全性を確保するために設計者が腐心しているのが放射性物質、放射線の漏えいを防ぐことなのである。
シュールストレミングというニシンの発酵食品が北欧にあるという。世界一臭い食べ物で缶に封じられて輸送、販売されている。缶に密閉されていたら当然、臭いはしない。どうも、これと同じ理屈が原発にも当てはまるようだ。原子炉の中がどれほど放射線の嵐になっていようとも、外に漏れない限り問題はない。そこにあるということは怖いことだが、刑務所に収監されている凶悪犯は脱走が不可能ならば危険ではない。ただし脱走が不可能ならば、である。放射能漏えい対策も同じような観点でなされている。
一口で言うならば、有害な物質を無害化する方向ではなく、無害化はできないから閉じ込めてそっとしておく、という方向性なのである。この考え方が原発の安全確保のための設備づくりの基本的な哲学である。現在ある施設のすみずみまで、この哲学が貫徹されている。
その哲学の具現化として多重防護というものがある。原発関連資料ではこの言葉を散見するが、要は幾重にも防御線を張っているということ。具体的には大きく5つの壁を用意して万が一に備えているとしている。その壁で放射性物質、放射線を遮断して、外に漏らさないようにしているのだ。福島の事故を見れば分かるように、この壁がすべて破られると地域一帯が壊滅的なダメージを負うことになる。
原発内で作業に従事している人のなかには重篤な放射線による障害を被る人も出てくることだろう。長期間にわたって故郷を離れざるを得ない人々も多数出ることが予想できる。加えてさまざまな実害、風評被害が発生し、農水漁業や工業、観光などに至るまで当地に関係するすべてが多かれ少なかれダメージを受けてしまうことだろう。職を失い、土地を失い、健康を損ねる恐れのあるものを封じ込めておく役目の壁。この強固さこそが、原発を安全に運用できるかどうかを決めるのである。
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